青が消える



教科書に載っていた物語で
今でも唯一覚えているタイトルがそれです
村上春樹の短編小説です


部屋にある青色の香水は
どんなに眺めても青色だし
私の世界からも青色は消えていませんが
心の中の青い靄がひとつ消えました


眠る前には甘くて温かい飲み物が必要です
今晩は温かいチャイを飲もうと
マグカップに手を当てていたところでした
恋人との電話の時間です

直接の声と電話の声は少し異なる部分があって
どちらも好きだけど 
電話の声は会話のときの相手の声そのものが
より耳元に響くので好きです

恋人との電話はいつもあっという間で
時間の流れがいつもと違う感覚に思えます
電話の向こう側の恋人を思い描きながら
無言の会話にも幸せを感じます


相手の顔が見えないほうが
想像の幅が広がって
面白いこともあります
吸っている煙草の長さはどれぐらいなのだろうか
今感じている空気はどのように冷たいのだろうか
電話を持つ手はどちらだろうか
などなど
どうでも良いようなことを想像します


今日は旅の話を聞きました
その様子を思い浮かべてみたり
一緒に行った場合を想像したり
声を聞きながら様々を楽しみました
楽しそうに話しているのを聞くのは
こちらも楽しくなることです
近い未来の楽しみが増えました


そして私の過去の話もしました
何処にでもありそうな
ロクでもなくて消したい過去の話ですが
私は正直に話しました

きっと知らないほうが良いことは沢山あります
けれど私は聞かれたことに嘘は言えません
元々 嘘をつくのが下手らしいです

ロクでもなくて消したい過去の話は
長引いてしまいました
改めて知ってスッキリしたいと
そう言ってくれましたが
聞いて本当にスッキリしたかは
わかりません
受け容れると言いながら
まだモヤモヤしているのかもしれません

大丈夫 信じるよ というその言葉も
自分に言い聞かせているだけなのではないかと
恋人の抱く感情の測れないことに
不安を感じ 申し訳ない思いになります

誰かを信じることは難しいです
私が昔の恋人を信じきれなかったので
一度不安になると
なかなかそれを取り除けないのは
痛いほどわかっているつもりです

改めて知ろうと
受け容れようとしてくれる姿勢に
私は心が苦しくなりました

全部無かったことにすればいい
そう思って成り行きに流されていました

無かったことになんて出来ないのに
どうしてもっと慎重になれなかったのだろうか

どんなに目を背けたくても
私は過去を消すことが出来ませんでした
記憶を誤魔化せたとしても
空白が残ってしまいます
後味の悪いものです

大切な誰かを守りたいときに
そんな空白は本当に大きな後悔になります

ロクでもなくて消したい過去ですが
もう二度繰り返さない為にも
今は忘れてはならないと思っています

本音はどうであれ
恋人は受け容れると言ってくれました
私は徐々に変わりつつあるし、変わっていかなければなりません

始まりは不純でも
純粋な気持ちを持つことは出来ます

自分のことも他人のこともよく考えて理解出来るように
暗い思考を明るくするように
自信の無さから表れる遠慮が減っていくように
自分の幼い部分を大人にしていけるように 
ありきたりなことですが
今までの受け身すぎた自分を
良く変えていきたいです

愛情を言葉にされすぎると
なんだか不安になってしまうのですが
その違和感はきっと
幸せの類なのでしょう

暗い話をしてしまいましたが
それでなんとなく青い靄が消えたのでした

電話を終えて余韻に浸りながら
冷めきったチャイを飲み干しました


あたたかい愛情は
これからもどうか続きますように